イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

情報工学研究院

准教授

坂本 憲児

さかもと けんじ

所属
情報工学研究院
知的システム工学研究系
プロフィール
1973
生まれ
2003
山口大学大学院
理工学研究科博士(理学)
2008
広島大学
ナノデバイス・バイオ融合科学研究所
2012
九州工業大学
マイクロ化総合技術センター
2021
九州工業大学
知的システム工学研究系

マイクロ流体デバイスは、一滴の微量サンプルで高度な化学分析ができるのが特徴です。またマイクロ流体デバイスをLSI技術と融合するとバイオセンシングが可能です。これを医学分野やヘルスケア分野に応用すると、これまでにない新しい検査や健康管理が可能になり、健康な社会を実現する事ができます。健康で快適な生活を送るため、マイクロ流体デバイスの研究を進めています。

マイクロTAS技術で世の中を便利に

● 研究テーマ

  • ❖ アレルギー検査用マイクロ流体チップの研究
  • ❖ 体液粘度測定チップおよび装置
  • ❖ マイクロポンプ集積型センサデバイスの研究

● 分野

マイクロ流体工学、microTAS、MEMS

● キーワード

マイクロ流体デバイス、流体力学、CMOS-MEMS、医療検査チップ

● 実施中の研究概要

❖ 血球細胞を用いた次世代アレルギー検査チップの研究

 食物アレルギーは著しく社会生活を妨げ、時に生命に関わるため、抗原の同定と過敏性の程度の把握は極めて重要となっています。しかし、現行の検査法は信頼性が低い・多くの血液が必要・危険を伴うなどの問題があります。特に乳幼児の場合は血液を大量に取る検査が困難であり、新しい検査方法が必要になっています。そこで私と広島大学医歯薬学部の共同研究により、極微量の採血量100マイクロリットルからアレルギー検査を行える検査チップの研究を行っています。
 血球細胞の中に含まれる好塩基球細胞は人体のコピーのようにアレルギー原因物質に対して反応します。この特徴を活かして生きた好塩基球細胞をセンサ上に置いてアレルギー反応測定を行うと正確な検査ができます。しかし好塩基球細胞は白血球細胞のわずか0.5%しか存在せず、乳幼児のように採血量が少ないとその分離が困難です。そこでマイクロ流体デバイスを用いて、極微量の血液から好塩基球を分離し、微小センサでアレルギー検査を行うチップを研究しています。

❖ 体液粘度測定チップおよび装置

 血液の粘度は生活習慣病のリスク指標となります。そのため、血液一滴で簡便に粘度の評価ができれば、日々の生活習慣病の予防が実施できると考えられています。他にも唾液粘度は口内環境を表している事が知られており、体液の粘度測定は注目されています。けれども世の中の粘度測定装置は、体液サンプルには不向きです。体液は感染症の危険性があり、また他の人とのサンプルの混同が許されないため、簡単な測定は出来ません。
 本研究では微量の体液(血液や唾液など)の粘度を簡単に測定する粘度測定の研究を行っています。2種類の粘度測定の研究を行っており、1滴の血液など微量(数μL以下)のサンプルには、マイクロ流体チップを用いた電気計測による粘度測定、また唾液などもう少し採取出来るサンプルには、キャピラリー内部の流体力学的な計測により粘度を測定する研究を行っています。マイクロ流体チップを用いて、キャピラリー内部の電気伝導率からWalden法則を用いて粘度を測定、または流動状態から流体力学的に粘度を測定する研究を行っています。

❖ マイクロポンプ集積型センサデバイスの研究

 液体を扱うマイクロ流体技術とLSI技術を用いたセンサの融合デバイスは、新しいバイオセンシングを実現します。例えば遺伝子配列解析ツールの一つである遺伝子トランジスタは、ゲート面に固定化した一本鎖遺伝子の相補的反応を電気化学的に検出する簡便な遺伝子センサであり、個別治療(テーラーメード医療)を実現目指して研究されえています。このセンサを用いた遺伝子解析には、センサ面に複数の試薬(塩基)や洗浄液を最小pL~nL程度投入する必要がありますが、これに外部ポンプを用いると、装置システムの小型化や操作の簡単化を阻み、多数の無駄な試薬が発生し測定も長時間かかることになります。解析の簡便性をあげるには極微量を送液するマイクロポンプと遺伝子センサを一体化し、連動測定するシステムが必要です。
 そこで本研究では、マイクロ流体デバイス技術を用いたマイクロポンプとバイオセンサを一体集積化を行い、センシングシステムの小型化の研究を進めています。特に生産性を考慮して、CMOSプロセスに適したモノリシック製造法での研究を行っています。

● 今後進めたい研究

 アレルギー検査チップについては基礎的な研究が進んでおり、今後は量産化プロセスの研究を進める必要があります。研究室で行っている複雑なプロセスは、量産には不向きです。マイクロ流体チップの作製プロセスを簡略化して、測定性能を保つ事は重要な研究課題となります。特に臨床研究に進むためには、数千個の検査チップが必要です。共同研究企業と共にこれを解決していく必要があります。
 体液粘度測定チップおよび装置については、より実用的な研究を進めたいと考えています。体液は非ニュートン流体であり、これを測定するために現在の測定チップを改良する必要があり今後の研究課題です。また臨床研究に進むため医工連携を進めていきます。
 マイクロポンプ集積型センサデバイスの研究は、基礎的な研究段階です。マイクロポンプの原理的な駆動が出来ていますが、複数ポンプの制御システムの構築が研究課題となっています。
 今後はこれらの研究を進めていきます。

● 知的財産権(技術シーズ)

「粘度や表面張力を測定するシステム、および粘度や表面張力を測定する方法」PCT/JP2021/012837
「液体採取装置、マイクロ流体チップ、粘度測定方法および表面張力測定法」特願2019-114609
「体液粘性測定装置」特許第6762009号
「細胞分離測定チップ」特許第5812469
「解析装置及び解析装置の製造方法」特願2010-126335
「検査用シート、化学分析装置及び検査用シートの製造方法」特許第5688635号

● 過去の業績

1) Sakamoto, K., Kobayashi, K., Tabira, K., Hachiya, Y., Ohno, K.,Evaluation of viscosity and surface tension of low-volume samples using glass capillary, Japanese Journal of Applied Physics, 2020, 59(10), 107002
2) Yuhki Yanase, Kenji Sakamoto, Koichiro Kobayashi, and Michihiro Hide, Diagnosis of immediate-type allergy using surface plasmon resonance, Optical Materials Express Vol. 6, Issue 4, pp. 1339-1348 (2016).
3) 柳瀬雄輝、坂本憲児、秀 道広「表面プラズモン共鳴センサと細胞分離チップを組み合わせた即時型アレルギー診断」化学工業Vol.68 NO.4 2017年 31~36
4) 「生活習慣病予防のための体液粘度測定装置」月刊バイオインダストリー, 第37巻、第11号 2020年

● 関連リンク先

❖ より詳しい研究者情報

   アレルギー検査チップ(イメージ)

   アレルギー検査用マイクロ流体チップ

    粘度測定装置(毛細管法)

   粘度測定装置(マイクロ流体チップ)

   マイクロポンプ‐センサ集積化デバイス