准教授
きうち まさる
「学部時代の恩師の先生から、「超伝導というのは“盲目のゾウ”だよ」、との教えを頂きました。研究対象にするなら“このゾウ”がいいだろうと考え、超伝導体の研究を始めました。」
*“盲目のゾウ”とは盲目の男たちがそれぞれゾウに触り報告すると、あるものは「ゾウは柱のようだ」、「うちわのようだ」、「ながいものだ」と全体をくまなく調べるまでは全体が把握できないというお話です。
身近に広がる超伝導技術
電気・電子材料工学、超伝導工学、応用超伝導
酸化物超伝導体、臨界電流密度、磁束ピンニング、超伝導機器応用
超伝導体とは-270度℃のような極低温まで冷やすと、電気抵抗が突然ゼロになる特性を持った材料のことです。この特性を利用してさまざま様々な機器が作られています。よく知られたものには、時速581kmの世界記録を達成したリニアモーターカー(磁気浮上列車)がありますが、これは超伝導体を線材加工しコイルに巻き、そのコイルに大電流を流すことにより強力な電磁石を作り、初めて実現した技術です。この他の応用例としては、核磁気共鳴という現象を利用して人体の断面写真(CTスキャン)を撮る磁気共鳴診断装置があります。さらに1985年に-200℃まで冷やすと超伝導になる酸化物超伝導体が発見されました。この酸化物超伝導体は高価な液体ヘリウムではなく、無尽蔵にある液体窒素による冷却で電気抵抗ゼロの特性が得られるため、更さらに広い分野への利用が期待されています。例たとえば電力ケーブルや、焼き固めた酸化物超伝導体の塊(バルク材)を用いて、汚泥磁気分離という方法で水を浄化する環境技術の研究開発等などがあります。
このように様々な分野への超伝導体の利用が期待されていますが、超伝導体の魅力的な“電気抵抗ゼロ”特性にも限界があります。この限界の電流を“臨界電流”と呼びますが、この臨界電流が超伝導体の使用環境で大きく変化します。従いまして、この使用環境の拡大が工学的に重要になります。超伝導になる温度と磁場(これを臨界温度と呼びます)は材料によって決まる先天的な特性ですが、臨界電流は超伝導の作製方法等などの様々な条件で大きく変化するために、その材料の最適化を行うことにより大きく特性が改善できます。従いまして、当研究室ではこの臨界電流改善のための研究を行っています。
現在、優れて臨界電流を持つY系コート線材が開発されつつあります。まだ高価な超伝導線材でありますが、昨今の線材開発技術の向上に伴い、安価で優れた超伝導線材の提供も直前になっております。従いまして、地球に優しく、身近な超伝導材料になるためにも、今までにない超伝導応用分野の開拓が必要であり、この研究にも積極的に取り組んでいく予定です。
材料評価用の6T(テスラ:磁束密度)、14T超伝導マグネット。温度可変装置付きで、室温300K(27℃)から液体ヘリウム4.2 K(-231℃)までの温度範囲の測定が可能。
最大77Tまで加えることが出来る、超伝導量子干渉磁力計(SQUID)
手作りの微小交流磁界重畳法を行うことができる装置があります。
私の研究室では超伝導体の臨界電流密度特性の評価を行っております。超伝導体は温度や磁界に大きく影響を受けるために、超伝導体の特性評価に超伝導マグネットを使用します。特に当研究室にあるSQUID磁力計は4.2K(-231℃)から300K(27℃)までの温度領域と最大の77T(テスラ:磁束密度)まで加えることができる高磁界仕様です。そのため、超伝導材料ばかりでなく、磁性体や温度依存性等の特性評価が可能であり、他大学の基礎実験にも利用されています。
『Bi-2223 超伝導テープ線材の評価 』(住友電気工業 株式会社)
『Y系超伝導線材の臨界電流密度特性評価』(国際超電導工学研究所)
『臨界電流密度特性の評価』(九州電力 株式会社)