イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

工学研究院

准教授

山口 富子

やまぐち とみこ

所属
工学研究院
物質工学研究系
プロフィール
1963
生まれ
2004
博士(工学)
九州工業大学大学院
受賞
▶ 『第26回 軽金属溶接論文賞』
(社) 軽金属溶接構造協会、日本 (2008)

▶ 『平成16年度 溶接冶金研究委員会優秀研究賞』
(社) 溶接学会溶接冶金研究委員会、日本 (2005)

より詳しい研究者情報へ

いろいろな金属材料にレーザを照射し、レーザ光の急速加熱・急速冷却の特性を利用して材料表面を改質

● 研究テーマ

  • ❖レーザ照射による材料の表面改質に関する研究

● 分野

材料加工・処理(5405)

● キーワード

レーザ加工、熱処理、溶射

● 実施中の研究概要

❖従来技術の問題点

① 金属材料の強度・靭性・疲労特性は、結晶粒の大きさに強く依存し、これらの特性は、結晶粒の大きさが小さくなるほど向上することが知られています。しかし、微細な結晶粒を有する材料でも、一度、熱加工を加えると、粗大な結晶粒に置換わります。このため、製品の最終段階での再度の結晶粒の微細化は不可能でした。
② 溶射皮膜の特性を改善する方法として、皮膜の溶融 (フユージング) 処理が行われているが、これは結晶粒の微細化の観点での処理ではなく、皮膜の品質は不十分でした。
③ 金属めっき法は、材料表面に種々の特性を付与する方法として古くから利用されていますが、本技術の難点として、めっき処理に使用した廃液処理などがありました。

❖新技術の特長

① レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化によって得られる効果は、強度と靭性の向上による脆性破壊の回避と、疲労寿命の延伸による機器や構造物の長寿命化とがあります。
② レーザ照射による溶射皮膜の特性改善の効果によって、高温耐食性および耐摩耗性が改善されます。
③ レーザ照射によるナノ粒子の接合の効果で、メッキの代替技術、必要な個所に金などの被膜を形成 (メッキ廃液の処理が不要) することができます。

● 今後進めたい研究

 現在、レーザ照射によって結晶粒の微細化、溶融凝固組織の微細化ならびにナノ粒子の接合について基本的な技術は開発済みです。今後はレーザトーチの移動に関するロボット化など、これらの実用化へ向けた研究が課題です。また、ナノ粒子の接合に関しては、さらなる実験データの積み重ねを行って、レーザの照射エネルギーの最適化を行う予定です。

● 特徴ある実験機器、設備

① YAGレーザ溶接機(1.5 kW)……レーザ溶接、各種金属の表面改質研究に利用
② 真空圧延接合装置……誘導加熱装置を備えたロール圧延機で、異種金属(アルミニウム板と鉄板、銅板あるいはチタン板など)の接合研究に利用

● 知的財産権(技術シーズ)

▶『溶射皮膜を形成した素材の改質方法』……レーザ光を照射して行う溶射皮膜の改質方法
特願2005-351381(2005) 西尾一政、加藤光昭、山口富子

▶『固相変態を有しない金属材料の表面改質法および表面改質された固相変態を有しない金属材料』……結晶粒を微細化することができる固相変態を有しない金属材料の表面改質法および表面改質された固相変態を有しない金属材料を提供
特願2005-100504 (2005) 西尾一政、加藤光昭、山口富子、日本

● 過去の共同研究、受託研究、産業界への技術移転などの実績

【共同研究】
▶金めっき代替技術の検討 (2006)……接合部に金のナノ粒子を塗布し、レーザ光を照射して融合させる技術の開発
▶金型パーツの長寿命化を目的とした放電加工面の改質 (2006)
▶スタッド溶接技術に関する研究 (2006)

【地域イノベーション創出総合支援事業】
「重点地域研究開発推進プログラム (シーズ発掘試験) 」抵抗クラッディング法による軽量耐摩耗性複合材の開発……低融点物質を溶融凝固させて、クラッド層を形成する方法を用い、板厚2mmの鋼板上にWC-6.5Co及びWC等の耐摩耗金属粉末を単独にクラッディングして、耐摩耗性改質層を制御する技術を開発する。さらに、板厚2mmの軽量材料にバインダ-を用いずに、高硬度物質を溶融凝固させてクラッド化を図り、新規な軽量耐摩耗複合材を開発する。

● 研究テーマ(2)

  • ❖真空圧延接合法によるクラッド材の製造とその特性の研究

● 分野

材料加工・処理(5405)

● キーワード

クラッド接合、塑性加工、固相接合

● 実施中の研究概要

 真空圧延接合法により、アルミニウムと軟鋼・アルミニウムと銅などの異種金属板を用いて、接合温度、圧下率および真空度を変化させてクラッド材を作製し、それらの接合性を検討した結果、以下のようなことが分かりました。
① クラッド材の接合部引張強度は、真空度を3Paに保ち、圧延温度をある温度以上にすれば、圧下率が20パーセント前後で十分強固な接合面が得られるということ。
② 真空度が低くなると接合部引張強度は低下し、界面に酸化物がみられるということ。
③ TEM (透過型電子顕微鏡) での観察結果、十分な真空度と温度で圧延したクラッド材の接合界面には、金属間化合物は認められず、アモルファス (非結晶質) の層が存在し、それを介して異種金属が接合されているということ。
④ アルミニウムと他の金属とのクラッド材の接合部引張強度は、接合部の面積をアルミニウムの断面積より小さくしたテストピースの試験結果で、アルミニウムの母材部以上の強度を持つこと。

● 研究室ホームページ