イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

情報工学研究院

准教授

村上 直

むらかみ すなお

所属
情報工学研究院
知的システム工学研究系
プロフィール
2007
博士(工学)九州大学
2006
九州大学大学院
工学府物質プロセス工学専攻
博士後期課程単位修得退学
2003
九州大学大学院
工学府物質プロセス工学専攻
修士課程修了

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マイクロ・ナノ3次元構造に機能素子をトッピング
-新たなデバイス機能の実現と付加価値の創出を目指す-

● 研究テーマ

  • ❖ マイクロデバイス表面への付加プロセスによるデバイス機能の多様化および高度化の研究
  • ❖ ナノサイズ構造の組み込みによるマイクロデバイスの高付加価値化に関する研究
  • ❖ マイクロデバイス表面の濡れ性制御の研究

● 分野

マイクロ・ナノデバイス、MEMS (microelectromechanical system)、微細加工技術、機能材料・デバイス、薄膜・表面界面物性

● キーワード

マイクロ・ナノセンサ、マイクロ化学システム、五感センサ、機械振動子、マイクロ・ナノ構造作製、マイクロ・ナノ加工、エッチング(ドライ / ウェット)、成膜、濡れ性の制御

● 実施中の研究概要

近年、自動車、各種電子機器、家庭用ゲーム機のコントローラーなどにおける物理量センサ(加速度・傾き・圧力など)、および、インクジェットプリンターのヘッドなどの幅広い用途で、シリコン基板などの3次元微細加工により作製したマイクロメートルサイズの機械構造を含むMEMS (microelectromechanical system) デバイスの実利用が広がりを見せています。
このMEMSを含むマイクロデバイスの基礎と応用、および、作製プロセスに関連して、以下のような研究テーマに取り組んでいます。

❖ マイクロデバイス表面への付加プロセスによるデバイス機能の多様化および高度化の研究

共通仕様のマイクロデバイス表面の微小な領域に対して、用途や目的に応じた材料・形状の機能素子や構造体を追加のプロセスで作製することにより、マイクロデバイスの機能を、半オーダーメードで拡大し高度化することを目指した研究を行っています。具体例としては、シリコン製のマイクロ振動子の表面に対して、共振型質量センサ(注1)の検出部として用いるためのガス吸着膜を追加形成する手法について、研究を行っています。
本用途では、検出対象物質に対して選択的な吸着能を示すガス感応膜を振動子表面に形成することで、検出の選択性が付与されます。一方、マイクロ振動子の作製プロセスの最終段階で使用されるフッ酸は、ガス感応膜材として選択される高分子や無機酸化物の薄膜の多くに対して影響を及ぼすと考えられ、ガス感応膜は、マイクロ振動子の形状作製の終了後、追加プロセスで振動子表面の所定領域に形成できると非常に好都合です。しかし、作製終了後のマイクロ振動子は機械的強度が低い可動構造体であるため、その表面に過大な負荷をかけることなく、所望の領域のみへの成膜を容易に実現することが重要となります。私たちは、サブミクロン幅の枠構造と化学的な表面修飾による成膜表面の濡れ性制御とを組み合わせることで、マイクロカンチレバー型振動子表面の一辺が数十~数百μmの所定の領域内部のみに限定してガス吸着膜を塗布成膜が可能なことを示しています(図1)。本手法では、カンチレバー表面に大きな負荷をかけることなく、ただ塗布溶液を滴下するだけで成膜が可能です。
今後はさらに、同一基板上の複数個のマイクロ振動子表面の所定領域に対して複数種の材料を逐次的に成膜する手法を確立することで、複数種のガスの同時検出も可能なマイクロガスセンサなどの実現へとつなげていくことを目指しています。
ガス感応膜などの成膜以外の例として、作製完了後のマイクロ流路デバイスの基板表面に、金属薄膜の機能素子(温度センサ、ヒーターなど)を追加プロセスで作製することで、マイクロ流路内の流体温度を検出・制御するための研究も進めています。物質合成、分析、粒子分離など様々な用途で開発されているマイクロ流路デバイスにおいて、温度を検出・制御する機能素子を追加で付与することで、各流路デバイスの運転性能の安定性、安全性および均一性などの向上につなげることを目指しています。

(注1)共振型質量センサ:振動子の表面への検出対象物質の結合に伴う共振周波数のシフト幅より、振動子表面に結合した検出対象物質の質量を検出するセンサ。振動子の表面に選択対象に応じたガス吸着膜を形成することで、高感度なガス検出にも利用可能となる。

❖ ナノサイズ構造の組み込みによるマイクロデバイスの高付加価値化に関する研究

マイクロデバイスの一部に、ナノサイズの構造を組み込むことで、デバイスの性能向上を目指す研究を行っています。具体的には、図2に走査型電子顕微鏡での断面観察像を示すような数百nm幅の溝構造を、図3のようにマイクロ振動子デバイスに構造の一部として組み込むことで、そのデバイスにおける静電駆動力の増大、振動状態の検出の容易化を目指しました。数百nm幅の溝構造は、電子線描画で作製したレジストマスクを用いたドライエッチングによりシリコン基板に作製したもので、その幅や形状はエッチング条件の調整により変化させることが可能です。同様の溝による表面凹凸構造をデバイス表面に付与することで、その表面特性(濡れ性など)の制御を目指す研究も行っています。

❖ マイクロデバイス表面の濡れ性制御の研究

上記1, 2のテーマにも関連して、シリコンおよびガラス製のマイクロデバイス表面への微細構造の付与、および、化学的な表面修飾などを組み合わせることで、その表面の濡れ性などを制御する研究も行っています。

図1. 追加のプロセスによるマイクロデバイスへの機能付与

図2. シリコンのドライエッチングにより作製した数百nm幅の深掘り溝構造: 溝幅 (a) 約100nm, (b) 約500 nm

図3. 約100nm幅の電極ギャップを有する静電駆動型円環マイクロ振動子デバイス (a)デバイス全体像, (b) 電極ギャップ付近の拡大像

● 今後進めたい研究

● 複数のマイクロデバイス要素(流路系、センサ素子、駆動部など)を含む実用システムの研究開発
● 医療分野および物質合成の分野において役立つ多機能・集積型マイクロシステムの研究
● ボトムアップ的な手法で構築された分子素子や生物由来の機能素子をマイクロ・ナノサイズの3次元構造に組み合わせた化学・生物融合型のマイクロデバイスの研究

● 特徴ある実験機器、設備

マイクロ化総合技術センター [http://www.cms.kyutech.ac.jp/index.html]
(MEMSデバイス作製の主要なプロセスを実施する際に使用)

● 過去の共同研究、受託研究、産業界への技術移転などの実績

【学術論文】
1. 「共振型マイクロ化学センサへの感応膜塗布特性の制御のための表面微細パターンの利用」,電気学会論文誌E, 131, pp.296 (2011)
2. "Fabrication of two-point-supported annular microresonators with vertical transducer gaps", Micro and Nano Letters, 6 , pp.469 (2011)
3. "Fabrication of 150 nm-wide transducer gaps for disk-type resonators by single dry etching process", Jpn. J. Appl. Phys., 49 (6, Sp. Issue), 06GN04 (2010)

● 研究室ホームページ