生体分子間相互作用の駆動エネルギーを捉える
生物物理学
機能生物化学
タンパク質、分子認識、熱力学、水
糖鎖、オリゴ糖、生理活性、材料
エネルギー変換、筋肉、酵素、水、相互作用
生物の基本要素である、タンパク質を対象として、他の分子(たとえば糖類)との、相互作用により発生する結合熱を計測する事により、熱力学的な観点からの分子認識機構の研究を行っています。この熱力学の観点からの分子認識機構へのアプローチにより、構造学的に理解することの困難な不定形分子(分子を構成している各結合の回転が自由に起こり、フラフラして、形のない分子)の認識についての研究が、可能になります。不定形分子は、糖鎖に多く、感染などの生体反応で、重要な役割を担っています。よって、糖とタンパク質の熱力学的相互作用から、感染症を明らかにして行くなどの成果が期待されます。
また、形のないものを捉える機構の研究は、まったく未知ですが、その分、とても興味深く、基礎的にも応用的にも、大きな可能性を持っていると思われます。
α1-3結合性多糖(グルコースが多数重合した糖)とは、歯垢の主成分として、知られる多糖で、水に溶けない性質を持っています。現在まで、この、α1-3結合性多糖を生成する、酵素の研究を行ってきました。この酵素を用いれば、α1-3結合性多糖を、大量に調製することが出来ます。現在、坂本順司教授との共同研究として、α1-3結合性多糖を、オリゴ糖(少糖類 : グルコースの結合数が少ない糖)や、グルコース (単糖)に、分解し溶かす酵素の探索を行っています。分解酵素が見つかれば、虫歯の予防などに役立つかもしれません。一方、α1-3結合性多糖を、化学的に分解して、α1-3結合性オリゴ糖にすることもできます。このオリゴ糖は、何らかの生理活性を持つ可能性があります。
生物のエネルギー変換時の反応において、「生体のエネルギー通貨」とされる物質ATP(アデノシン三リン酸)が、加水分解されます。ATP 加水分解のエネルギーは、ATP内の化学結合が、そのエネルギー源になっているのではなく、水溶状態で存在していることが、エネルギーの放出のために重要です。このATPに関しては、1960年代にタンパク質の存在下における動作に対しての研究が進められていましたが、近年のコンピューター技術の進歩を踏まえ、改めてATPのエネルギーの実態を調べる研究を行っています。研究の進捗状況としては、まだ基礎段階で「研究すべきプロセスは見えてきた」といったところですが、生物の基礎部分を解明する、という大きな可能性を秘めており、また、停滞していた分野を、自分の手で再発見する楽しさのある研究でもあります。
上記のタンパク質による、分子認識機構と、ATP(アデノシン三リン酸)に関する研究を、中心に進める予定です。
● 等温滴定型熱量計
機器自体は市販(米国MicroCal社)されているものです。試料に滴定液を加えて、そのときの反応により生じる熱量を100万分の1calまで測定できます。試料セルと対照セルが備え付けられており、反応により生じる熱量を試料セルと対照セルの温度差を補償し、その時の電力量から求めます。
【共同研究】
▶タンパク質の周りの水分子の動態に関する熱測定 (東北大学 大学院 工学研究科 鈴木誠 教授)
▶ヘムオキシゲナーゼのヘム結合の熱力学的解析 (九州工業大学 情報工学研究院生命情報工学研究系 坂本寛准教授)
▶ニゲロオリゴ糖による免疫賦活活性と卵アレルギー抑制能 (香川大学 農学部 岡崎勝一郎 教授)
▶ムタン分解酵素の探索 (九州工業大学 情報工学研究院生命情報工学研究系 坂本順司教授)