教授
たけざわ まさあき
現在の研究分野である「磁気工学」の道を選ぶきっかけとなったのは、大学の研究室を選んだときです。私は電気工学科の学生でしたから、その当時の花形・人気研究室と言えば半導体関連の分野でした。そのとき私が考えたのは、電気の学生がやらない分野を勉強すれば、卒業したときに他の電気出身学生に差をつけられるのではないか、ということでした。選んだ研究室は当時は不人気の研究室で、私の同期はじゃんけんに三回負けてやって来たほどです。
そこで私は、まったく馴染のなかった磁気センサーの研究テーマを与えられ、「磁気工学」のイロハを学ぶことができました。そのテーマの縁もあり、九州工業大学に助手として赴任したときのボスは磁性体の「磁区観察」の大家と言うべき方で、現在の研究テーマはそれを引き継いだものとなっています。
その中でも、様々な種類の磁性体に応用可能な磁区観察法の研究を始めたとき、そのデモンストレーションとして磁石材料を観察対象として選んだことが、現在、企業との共同研究で電気自動車のモーター用磁石材料の新規開発を行うきっかけとなりました。
紫外光を使ったナノメートル分解能の磁気イメージングで新しい機器開発を!
①電気・電子材料工学
②電力工学・電気機器工学
③電子デバイス・電子機器
磁区観察、永久磁石、電力用磁性材料、磁性体微細加工
モーター用磁石、変圧器鉄心、ハードディスクの記録媒体や再生ヘッドなど、私たちの身の回りには多くの磁性材料が用いられており、それらの損失や磁気特性を評価・把握することは大変に重要です。しかし、磁性材料の特性は材料内の局所的な不良点によって大きく左右されるため、材料全体の性能をマクロに評価するだけでは不充分です。
私たちは、光磁気ディスク(Magneto-Optical disk、MOディスク)などに用いられる磁気光学効果(Kerr効果)を利用した磁気イメージング顕微鏡を開発し、磁性材料のミクロな磁化情報の観察を可能にしています。この手法は、非接触で局所的な磁気特性を可視化できるという長所があります。
さらに私たちは、顕微鏡の光源に波長の短い紫外光を用いたり、観察画像の高速キャプチャを行うなど新規な手法に取りくむことで、従来では分からなかった電気自動車用磁石の性能劣化の原因を明らかにしました。また、次世代の高速不揮発メモリとして期待されるMRAM用マイクロ薄膜素子の特性評価を行うなど、新しい応用機器の開発研究を進めています。
現在は、各種磁性材料の観察・評価がメインですが、ここで得られた知見を活かし、新規な磁性材料(磁石材料など)、磁気デバイス(磁気センサなど)の開発を行うことも視野に入れています。
【磁区観察用顕微鏡:磁性体のミクロな磁化情報である「磁区」を可視化するための光学顕微鏡】
市販の偏光顕微鏡をベースにして磁気光学(MO)効果を画像として取得できるよう改造したものです。特に、短波長である紫外光を利用したことにより、従来の光学顕微鏡では不可能であった200nm(ナノメートル、10¯⁹m)以下の磁区観察の空間分解能を得ているのが特徴。磁化曲線などマクロな測定では分からない各種磁性体のミクロな磁気特性評価を可能にします。
■ Kerr効果顕微鏡を用いた動磁区観察によるネオジム磁石の磁化反転機構の解明
文部科学省、科学研究費補助金、基盤研究(C) (2014-2016)
■ 次世代モーター・磁性特性評価技術開発 (応力を考慮したモーター設計・評価技術の研究開発)
NEDOプロジェクト、次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発 (2012-2016)
■ 低希土類元素組成高性能異方性ナノコンポジット磁石の開発
文部科学省、元素戦略プロジェクト (2007-2012)