助教
つるまき ひろし
スピンに関する興味は、学部生時代、朝永振一郎博士の「量子力学 I, II」、「角運動量とスピン」を勉強してからもつようになりました。 最近では、“スピントロニクス”として知られるように、デバイスのスピンによる制御が注目を集めており、再びスピンに関する関心が強まりました。 そして、このことが、現在の研究に着手するきっかけになっています。
スピンによる半導体デバイスプロセス制御に関する基礎実験
物理学、物性I、表面・界面
水素原子、 半導体、 表面反応、 スピン効果
現在、半導体デバイスプロセスのスピンによる制御の可能性を模索するため、シリコン表面への水素原子吸着における電子スピン効果を調べることを目標とした研究を進めています。
これまで、電子スピン偏極した気相原子あるいは、分子が表面散乱に関する研究は行われていますが、当該研究では、気相原子だけではなく、標的である表面についてもスピン偏極(すなわち磁化)させ、着目する表面化学反応におけるスピン効果を調べることを目標にしています。 現在の進捗状況は基礎研究段階の終盤に差し掛かったところですが、今後はさらに追究を深め、スピン偏極の原理を利用する“応用面”についても検討を進めます。
【専門的説明】
超高真空下で、シリコン表面の不対電子を電磁石により、ダウンスピン状態に偏極させます。 一方、表面に照射する水素原子はマイクロ波水素プラズマにより生成し、さらに六重極電磁石の不均一磁界中に通すことで、その電子スピンをアップスピン状態に偏極させます。 また、六重極電磁石の背後に設置されたスピン反転装置を稼動させた場合、上記アップスピン状態の半分がダウンスピン状態に反転し、線束の等しい無偏極原子線に変換されます。 この偏極・無偏極水素原子線を表面に照射した際の吸着確率の違いから、スピン効果に関する基礎情報を取得します。なお、吸着過程の追跡には表面第二高調波分光法を使用します。
『核スピン偏極した水素原子による表面水素生成反応』
現有のスピン偏極水素原子線発生装置を用いて、核スピン偏極した水素原子線を発生させ、それを金属や半導体表面に照射した際に起きる、水素分子生成反応で、反応前の水素原子核スピンが生成水素分子でも保持されるかどうか(オルソ水素の選択的生成の有無など)を調べていきます。
【スピン偏極水素原子線発生装置】
この真空装置は、全長約2.5mの4段差動排気システムとなっており、各段は∅3のアパーチャーで仕切られています。1段目のプラズマ発生部では、マイクロ波プラズマ中に、水素原子を発生させます。
2段目のバッファー室で原子線をコリメート(注1)します。
3段目の六重極電磁石の不均一磁界により、水素原子線の電子スピン状態を規定します。
4段目には、一対の対向ソレノイドを内蔵したスピン反転装置を配置しており、これによりスピン状態を反転させます。これらの装置は、現在行っている研究における、主要な設備であり、大半の装置はオリジナルなものです。
(注1)試料上の電子線の入射点以外からの散乱を遮蔽するように、検出器の直前で絞ること。