イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

工学研究院

教授

渡辺 真仁

わたなべ しんじ

所属
工学研究院
基礎科学研究系
プロフィール
1973 生まれ
2000 博士(理学)
    東北大学大学院
    理学研究科
    博士課程修了
   (物理学専攻)
1997  修士(理学)
    東北大学大学院
    理学研究科
    修士課程修了
   (物理学専攻)

学生時代から、重い電子系、高温超伝導など、これまで思いもよらなかった現象が次々と発見され、めざましく発展を続ける物質科学の世界の魅力に惹き込まれて研究をはじめました。個々の物質が示す一見不思議な現象の謎を解明し、その背後に普遍性があることを明らかにできたときの感動は言葉にあらわせないほどです。とくに、理論研究がうまくいきそうな気配が漂ってきたときのわくわく感がたまりません。その感動と興奮が研究を前進させる原動力となっています。

受賞
2013 重い電子系研究奨励賞受賞
2011 日本物理学会第5回若手奨励賞(領域8)受賞
2006 第3回ISSP学術奨励賞受賞
2000 青葉理学振興会賞受賞

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物質の個性を解明し、普遍性を明らかにするための理論の構築

● 研究テーマ

  • ❖物質科学の理論研究

● 分野

数物系科学 物理学 物性Ⅱ(強相関系)

● キーワード

量子多体系、強相関電子系、物質科学

● 実施中の研究概要

物質中の電子には量子力学的な揺らぎの効果により、ある原子から別の原子へと移動する運動エネルギーの効果と、電子同士が近づくと電気的なクーロン反発を受ける効果が働いています。前者は電子の波動関数同士が重なり合って空間的に広がろうとするのに対し、後者は波動関数がなるべく重ならないように避けあおうとするので、互いに競合する関係にあります。この電子の遍歴性と局在性がせめぎあっているところで何が起こるか、それを解明することが量子多体系を研究する醍醐味と面白さです。このような量子ゆらぎと電子間相互作用の効果が本質的な役割を果たす系は強相関電子系とよばれており、電子の有効質量が通常の約1000倍も重くなる重い電子系や銅酸化物の高温超伝導など、これまで予想もされなかった新しい現象が次々と見出されています。常識を覆す新しい性質を示す強相関電子系物質のメカニズムを理論的に解明することを通じて、それらの現象の背後に存在する普遍的な概念を明らかにしていくことが研究の目標です。研究の対象は希土類化合物、アクチノイド化合物、遷移金属化合物、有機化合物、ヘリウム3などの物質系で、局所相関の強い遍歴電子系における新しい量子臨界現象の解明、強相関電子系における量子輸送現象、磁気的フラストレーション系における量子スピン液体の性質の解明などの研究テーマに取り組んでいます。

重い電子系物質YbAgCu4(左図でYb:緑, Ag:青, Cu:赤 )において、磁場下でYbの磁化が急激に増大するメタ磁性の新しい機構の実現を理論的に予言していましたが、X線吸収測定の実験によりそれが実証されました。

● 今後進めたい研究

新しい物理現象を実現するための物質設計と物性予測を行っていきたいと考えています。
個々の物質の不思議な振る舞いを解明する研究に取り組んでいる際に、新しい現象のメカニズムを理論的に見出すことがあります。たとえば、希土類化合物に対する理論模型において、f電子の電荷移動のゆらぎが発散すると同時に、f電子のスピンのゆらぎも発散するという新しい現象を理論的に見出しました。このような新しい機構が実現しやすい物質を理論的に設計して実験研究者に提案し、実際にそのような物質を合成することができるようになれば、新機能をもつ材料開発などの応用・発展にもつながると考えられます。今後、理論的に見出した新しい機構やアイデアをもとに新物質の物質設計と物性予測を行う研究も進めていきたいと考えています。

● 特徴ある実験機器、設備

コンピュータ (クラスタ計算機)
理論物理学者の研究スタイルとして、主に紙と鉛筆で計算を行う解析計算と、コンピュータを用いる数値計算の2つがあげられますが、その両方の研究手法を用いています。質的に新しい結果を得るためには、新しい理論手法を開発する必要がある場合が往々にしてありますが、解析的理論の枠組みや計算物理学的手法についての新しい方法論の開発にも興味をもって取り組んでいます。

● 過去の共同研究、受託研究、産業界への技術移転などの実績

物理学の中で、凝縮系物理学(物性物理学)という分野の理論研究を行っています。物質が示す深遠な物理現象のメカニズムを解明するために、実験と理論の相互検証は非常に重要です。2000年に発見された、強磁性体でありながら超伝導も示すUGe2という物質のふるまいを理論的に説明するために、実験が行われているフランスグルノーブルのCEA研究所に滞在して共同研究を行いました。それ以来、同研究所をはじめとする実験研究者と様々な物質について現在も密接な共同研究を行っています。

● 関連リンク先

❖ 研究室ホームページ