准教授
おおくま のぶゆき
学部生の頃、学園祭の物理学科展示で初めてトポロジカル絶縁体という用語を知った。その時は全く興味が無かったが、修士になって他の研究テーマで挫折している時、息抜きに勉強してみると案外面白かった。博士になる頃にはいつの間にかメインの研究テーマになり、現在に至る。
トポロジーで解き明かす、物質科学に潜む普遍的性質
数物系科学,物理学,物性II
トポロジカル絶縁体,非平衡物理
私の専門は、物質の性質を理論物理学を用いて解き明かす、「物性理論」という学問領域です。特に私が興味を持って取り組んでいるテーマは、トポロジカル物質の理論です。数学の一大分野の一つにトポロジーという、対象の大雑把な性質を扱うのに長けた分野があります。例えばドーナツの中央には一つの穴が空いており、一方でコーヒーカップの取手部分も一つの穴が空いているため、両者はある種の連続変形で互いに移り替われます。このような時に、両者を同一視して「同じ」モノとして扱うのが、トポロジーの基本的な考え方です。モノの大雑把な性質だけを抽出できるトポロジーの考え方は、サンプルの不均一さに影響されない普遍的な性質を扱う事を可能にするため、近年物質科学に応用され始めています。中でも、量子の波動関数のトポロジーが特殊な界面状態を誘起する「トポロジカル絶縁体・超伝導体」の物理は、代表的な成功例として理論・実験問わず盛んに研究されています。私は、このトポロジカル絶縁体の数理を、非平衡開放系や強相関量子系に応用する研究を行なっています。前者の研究においては、ある種のダイナミクスと、一見全く関係の無い平衡系トポロジカル絶縁体の間に数理的な関係を見出し、それを足がかりに研究を進めています。後者の研究においては、未だ実験的に見つかっていない「分数チャーン絶縁体」という強相関トポロジカル物質の成立条件を探す研究を行なっています。トポロジーは物理学の普遍的な性質と深く関係するためか、トポロジカル物性を研究していると度々、全くエネルギースケールの異なる素粒子物理学との接点に出くわします。こうした別分野との出会いもトポロジカル物質科学の醍醐味の一つです。
[共同研究] "Non-normal Hamiltonian dynamics in quantum systems and its realization on quantum computers", NO and Y. O. Nakagawa, Phys. Rev. B 105, 054304 (2022).
[論文] "Topological Origin of Non-Hermitian Skin Effects", NO, K. Kawabata, K. Shiozaki, and M. Sato, Phys. Rev. Lett. 124, 086801 (2020).
[レビュー論文] "Non-Hermitian Topological Phenomena: A Review", NO and M. Sato, Annual Review of Condensed Matter Physics 14, 83 (2023).