21世紀の新しい生き方を模索するフォークナー文学研究
人文学、文学、英米・英語圏文学、米文学
アメリカ文学、ウィリアム・フォークナー、近代性
アメリカ合衆国南部出身の作家、ウィリアム・フォークナーは1930年代に活発な執筆活動を繰り広げました。私の関心は1930年代のアメリカ社会・文化と、同時代に執筆されたフォークナー作品との関係を探ることにあります。居所を転々として作品を執筆した同時代のヘミングウェーとは対照的に、フォークナーは主として南部に定住し、南北戦争以来急激な工業化の波にさらされて葛藤する深南部の諸相を描いています。 1930年代のアメリカは、1929年10月24日の暗黒の木曜日に始まった株価の大暴落とそれに続く世界大恐慌の影響で、人々が近代社会に対して幻滅と限界を抱き始めた時代です。同時期には、映画界の巨匠チャップリンも、「モダンタイムス」で工業化社会を風刺しました。一方、近代化・工業化がさらに進みポスト・モダンとも称される21世紀の日本では、世界的な経済危機のなかで人々が未来に希望を持てなくなっています。1930年代のアメリカ南部と2000年代の日本は「時代も空間も大きく隔たっている」のに「近代社会への幻滅」という点では共通しているのです。
フォークナーは近代社会、工業化社会のなかで、新しい生き方を模索する人間たちの姿を描きました。彼の作品は、1930年代アメリカと同様に希望なき社会に生きる現代日本の私たちにとっても示唆に富むものです。 こうした問題意識に基づき、私は1930年代当時出版されたフォークナーの小説が、近代に対してどのように距離を置いているのかを考察しています。1930年代と現在との類似点を踏まえるなら、1930年代のアメリカ社会に対するフォークナーの批判的眼差しには、現代にも通用する新しい生き方の可能性が秘められていると思われます。 フォークナー文学はこれまでも様々な角度から研究がなされてきました。しかし、1930年代の文化的、社会的状況とフォークナー作品との関係を綿密に分析する試みが十分なされたとは言えません。私のフォークナー研究が現代人の行き方を照らす1つの灯標になることを願っています。
現在は、ヨーロッパの歴史や文化に興味が広がりつつあります。将来的には、アメリカ文学研究とヨーロッパへの関心が交差するような研究ができたらと考えています。