イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

工学研究院

准教授

齋藤 宏文

さいとう ひろふみ

所属
工学研究院
教養教育院
プロフィール
2008
東京工業大学
大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻博士課程終了

2005
東京工業大学
大学院社会理工学研究科
人間行動システム専攻修士課程終了

10代のある時、日本から最も近い”隣国”であるロシアの言葉や歴史・文化に興味を持ち始めたのがきっかけです。理系に進みながらもロシアの歴史や文学には常に関心を持ち続けていました。大学入学後は第二外国語でロシア語を選択し、生物学を専攻したことがあり、大学院進学後にロシア/ソ連の生物学史を研究テーマにすることでようやく落ち着きました。

”科学を科学する”視点をみがく

● 研究テーマ

  • ❖ 旧ソ連の生物学の歴史
  • ❖ 科学とイデオロギー、権力との関係の解明
  • ❖ 東西の科学者間の学術交流とコミュニケーション内容の検討

● 分野

科学社会学、科学技術史、科学技術社会論

● キーワード

ロシア、ソ連、生物学史、遺伝学、科学と権力

● 実施中の研究概要

 「ルィセンコ事件」として知られる、20世紀科学における最大の負の事例について、ロシア語の文書館史料に基づく研究を進めています。この事件では、我々が学校で習うメンデル遺伝学とは内容が異なるルィセンコ遺伝学がソ連で承認された後、メンデル遺伝学の研究・教育が完全に禁止され、それに反発した研究者や教員が一斉に追放されることが起こりました。これを機に、西側の科学者はソ連科学への敵意を募らせ、一方のソ連の科学者は己の孤立を深めたことにより、科学者間の自由な国際交流が阻害される事態となりました。いわば、世界共通の理念であるべきはずの科学が分断されたのでした。
 ルィセンコ事件をはじめソ連の科学技術の歴史を研究するに当たって注目すべき点の一つは、日本やアメリカ等とは全く異なる社会主義の下での諸条件や、マルクス主義の強力なイデオロギーが科学技術の発展や停滞にどのような影響をもたらしたのかの問題にあります。一般的にはこれらの強権的な要素は、元より自律的であるべき科学研究に対して悪影響をもたらすと考えられておりますが、注意深く歴史をみると一概にそう結論づけられない側面が見られます。そうした意外性に出会うことがソ連科学史を学ぶ醍醐味の一つと言えると思います。
 一方、科学史的なアプローチから視点を変えて、いわゆる科学知識の社会学の観点からルィセンコ事件を検討すると学問的問いの奥行きがさらに広がります。その第一の問いとは、なぜソ連では、ルィセンコ遺伝学という明確に誤った学説が権威と信頼を得ることに成功したのか?というものであり、現在、この問題に一定の答えを出そうと努力しているところです。この問いを一般化すると、ある科学知識が生成され、それが選択的に権威を獲得し政治や社会に受け入れられる時の全体的な過程ではどのようなことが起きているのかの問題に迫ることになるでしょう。これは現代の科学研究への支援内容を決める際に政府が行う意思決定の有り様に関心をもって、そこに批判的な視点を向ける態度にも繋がるものです。    
 2022年現在、世界には分断が広がっており、科学者の国際交流が妨げられる歴史が繰り返されています。科学の発展のためには自由な交流は言うまでもなく、それを保障する平和が必要なことをソ連/ロシアの科学史の立場から訴え続けていきたいと思います。

● 今後進めたい研究

 みなさんが大学で学んでいる個々の科学知識や技術は、どこで、いつ生まれ、その時代以降の社会とそこで生きる人々の間で(役に立つものとして)受け入れられるまでにどのようなプロセスを辿ってきたのでしょうか?そうした科学・技術の来し方を歴史的に振り返ることにより、皆さん自身がこれから生み出していく理論的発見ないしは技術製品が社会に将来どのような影響をもたらすのか、どうすれば社会の人々からそれらについての合意や理解を得られるのかを考える上で参考になることがあるかもしれません。たまには立ち止まって、みなさんが普段「所与のもの」(講義で用いる教科書に初めから書かれているもの)として受けとめているかと思われる科学知識や技術について見直してみる機会や余裕があってもいいものです。
 多少回りくどい言い方をしましたが、一つの学問分野についてメタな観点から絶えず問い直す作業を行うのが、私が専攻する科学技術史や科学社会学、科学技術社会論の特徴です。それらの一つに「科学コミュニケーション」(通常の言葉使いでは専門家と一般市民の間の相互理解や合意形成を目的とする活動のこと)という分野があって、この視点を上記の「ルィセンコ事件」の分析に応用してみることを今後の研究の展望として考えております。具体的には、ルィセンコ事件後に日本を含んだ様々な国で巻き起こったソ連科学をめぐる論争やそこでの科学者間のコミュニケーション内容をつぶさに調べ、論争的な科学知識が国境を超えて伝搬する時の条件や環境、およびそれらが受け手側の解釈評価にどう影響したのかを検討します。これらの作業を通じて、冷戦期の科学において「ルィセンコ事件」がもった歴史的意味の再考を目指しています。

● 過去の共同研究、受託研究、産業界への技術移転などの実績

“越境するソヴィエト科学”――旧ソ連由来の科学知の国際的影響――
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(B) 2021年4月 - 2025年3月
金山浩司(研究代表者), 齋藤宏文他

全連邦農業科学アカデミー文書記録(1935ー1948)に基づく農業生物学派の研究
日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(C) 2021年4月 - 2024年3月
齋藤 宏文(研究代表者)

ロシアにおける生物学教育のルィセンコ主義からの正常化過程をめぐる研究
日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究(B) 2015年4月 - 2018年3月
齋藤 宏文(研究代表者)

● 過去の業績

下記URL(researchmap)参照

● 関連リンク先

❖ researchmap

https://researchmap.jp/hiros7

❖ より詳しい研究者情報

https://hyokadb02.jimu.kyutech.ac.jp/html/100001542_ja.html