イノベーション推進機構 産学連携・URA領域

九州工業大学の研究者 -私たちはこんな研究をしています-

工学研究院

講師

阪口 慧

さかぐち けい

所属
工学研究院
教養教育院
プロフィール
2023
学術博士
東京大学大学院
総合文化研究科
言語情報科学専攻
2014
学術修士
東京大学大学院
総合文化研究科
言語情報科学専攻

美味しいものを食べて「やばい」と思わず口にしたことはありませんか?また、身の危険を感じたときにも「やばい」と口にする方は多いのではないでしょうか。よく考えてみると、不思議な現象です。もともとネガティブな意味の言葉がポジティブな意味を獲得しているわけですから。このような言葉の不思議(少し専門的な言葉で言うと、意味の拡張現象)に興味を持ったことが言語学の入口でした。今も一貫して形容詞や言葉の変化に関する研究を行っています。

受賞
教育業績等優秀教員賞
(東北学院大学, 2023年)

ヒトの感情、感覚、感性に関わる言葉としての形容詞に関する研究

● 研究テーマ

  • ❖ 言葉の意味は何故変化するのだろうか(意味拡張・多義性研究)
  • ❖ 言葉のもつ創造性、反映される人の感性(構文研究、認知言語学)
  • ❖ 新しい言葉、表現は何故生まれるのか(記述言語学)
  • ❖ 言葉の理解に関わる知識はどのようなものか(フレーム意味論)

● 分野

言語学

● キーワード

認知言語学、意味拡張、多義性、フレーム意味論、構文文法、記述言語学

● 実施中の研究概要

❖ 言葉の意味は何故変わるのだろうか

この疑問に説明を与える試みは認知言語学の仕事の一つと言えます。「言葉にはヒトの思考・認知能力が反映される」という認知言語学の立場に基づき、私は意味の変化・拡張(もともとない意味が増えること)と、ヒトの認知能力・思考との関連について研究しています。上述の通り、これが私の研究の出発点でもあり、今も考え続けている研究課題です。
実は、「凄い」も「やばい」と同じような変化をたどっていることご存じでしたか?もともとの意味は「ゾッとするほど恐ろしい」という意味です。それが時を経て良い意味に変化するのですから本当に凄い話です。

※「やばいって言葉、やばいじゃん!」と思われた方は是非、下記に挙げている”【論文】阪口(2013)”をご覧ください。

❖ 新しい言葉は何故生まれるのだろうか

「キモ可愛い」という言葉を耳にしたことはありませんか?この表現もよく考えてみると非常に不思議です。「キモイ」という外見に関するきわめてネガティブな言葉が、「可愛い」というポジティブな言葉と合体して一つの言葉となっているのですから。相反する意味の言葉でも合体出来るという不思議さ、人の言葉の創造的側面にも興味を持っています。このような創造的な性質にはどのようなパターンがあるのか、どのような認知的能力が働いているのかという点も、私の研究課題の一つです。

※複合語に関して気になる方は是非、下記に挙げている”【論文】阪口(2018)”をご一読ください。

❖人の理解に関わる知識はどのようなものなのだろうか

「あ~飲みすぎちゃった」という言葉を耳にしたとき、自然と「ああ、この人はお酒をたくさん飲んだのだな」と解釈しませんか?文面を見る限りでは「牛乳かな?麦茶かな?」などと考えてもよさそうなのに、このような文が出たときには自然と「お酒」を飲んだと解釈します。もちろん固形物を想定してもいいわけですが、基本的には「飲み物」に収束します。このように人は文に現れない要素を自然と補って理解することができます。
「飲む」という動詞を理解しているということは、[飲む人]がいて[対象]を[飲み込む]という色々な要素と、要素間の関係性を理解しているということ、つまり複雑で総体的な知識が備わっているということです。また、同時に「すする」や「食べる」といった動作との違いも理解しているわけです。このような知識の総体をフレーム(frame)と呼び、自分の研究では言葉の理解、特に形容詞のフレームについて考えています。

※味覚に関する形容詞、そしてその多義性について触れたものとして、下記に挙げている”【論文】Sakaguchi,K.(2022)”があります。英語で書いたものですが気になる方は是非読んでみてください。

● 今後進めたい研究

❖ 言葉の動的な側面を追いつつ、過去の研究を見つめなおす

今の研究内容を今後も続けていく予定です。ただ、特に注力したいのは「形容詞の意味論」の研究を再整理し、その意義を問い直すといった研究を最優先に行いたいと考えています。

❖ 言葉でヒトを救うことはできないか

言葉に思考が反映されるという言語観に基づくのであれば、SNSや企業内の日報、アンケート調査などから心的なストレス状態、希死念慮を予測することはできないか?つまり、言葉に見え隠れする「ヒトの危険信号」を察知する仕組みが作れないだろうかと考えています。もちろん、既に色々なIT企業が行っている内容ではありますし、自分自身、具体的な研究を行ったことはありませんが、いつかやってみたい研究の一つです。

❖ 言語獲得:形容詞の獲得順序

子供が言葉を覚える時、形容詞に限定した場合、どのような獲得順序、規則があるのかという点にも興味を持っています。

❖ 応用言語学:外国語学習者のエラーに関する研究

膨大な研究が応用言語学のフィールドに存在することは承知の上ですが、外国語教育に関わる以上、そして形容詞の研究をしている立場から、英語の形容詞の使用に関するエラーの傾向に関する研究にも興味があります。

● 過去の論文や著書などの業績

【論文】
・Sakaguchi, K. (2022) A frame-semantic approach to Japanese taste terms. In K.Toratani (Ed.) Language of Food in Japanese-Cognitive perspectives and beyond-, 231-262, Amsterdam: John Benjamins Publishing Company
・阪口 慧 (2018 ) 「[形容詞語幹+形容詞]型複合形容詞の意味―フレーム意味論・構文彙に基づいた複合形容詞の意味記述―」『認知言語学論考』, 14, 41-81.
・阪口 慧 (2013) 「日本語形容詞 「やばい」 の意味拡張と強調詞化に関する一考察―認知言語学から観る意味の向上のメカニズム―」『言語情報科学』, 11, 19-35.

● 関連リンク先

❖ Researchmap

❖ より詳しい研究者データ

https://hyokadb02.jimu.kyutech.ac.jp/html/100001882_ja.html