准教授
おおつぼ よしたか
舌の味覚器、味蕾は細胞の集団で構成され、脳や他の細胞からの情報を受け取る受容体を発現していることから、味蕾は単純なセンサではなく、細胞集団で味情報の処理や修飾をしていると考え、細胞集団における味情報処理機構に興味をもちました。
味覚器における味情報伝達や味情報修飾機構の研究
生理学一般、神経科学一般、生物物理学
受容体、チャネル、伝達物質、パッチクランプ、RT-PCR、免疫染色
食べ物の味を判定するのは脳であり、舌は単純なセンサと考えられてきました。しかし、私たちは、舌の上である程度の判定が行われていると考えるようになりました。たとえば、舌の上には味を感じる細胞集団、味蕾(図1)が多数分布しています。単なるセンサで良いなら、わざわざ集団化する必要はありません。また、集団を形成する細胞は、味センサだけでなく、脳やまわりの細胞からの指令を受け取るための装置、神経伝達物質受容体も持っています。私たちは、味蕾という細胞集団が味を判定するしくみを中心に研究しています。
【専門家向け説明】
舌や口腔内には、多数の味蕾が分布し、味物質を検出します。各味蕾は約50の味蕾細胞が構成する(図1)。私たちは、味蕾構造の機能を神経生理学的に研究しています。最近、味蕾細胞は各種神経伝達物質受容体を機能的に発現していることを明らかにし、発現している遺伝子サブタイプを同定しました(Eguchi et al., Chem. Senses. 2007, Hayato et al., J. Physiol., 2007)。これらの受容体の活性化は、細胞の電気的・化学的状態を変化させます。したがって、味物質受容時に、その細胞に発現する神経伝達物質受容体が活性化されると、味情報が修飾されることになります。分子レベルから、細胞集団レベルで味情報の修飾作用のメカニズムを解明し、生物学的重要性を明らかにします。得られた知見は、生体の味覚受容機構を模倣した化学センサ開発の基礎データとなります。
味蕾細胞の平均寿命は、10日までと言われ、絶えず細胞交代が生じているにも関わらず、我々は味を識別できています。一方、味蕾細胞は味神経への味情報伝達に少なくとも2種類の伝達方法を用いています。味蕾細胞が採用する2種類の伝達方法と細胞交代との関係に着目し、安定した味情報伝達を可能にする分子メカニズムを解明したいと思います。
① 共焦点レーザー顕微鏡
蛍光染色した細胞や組織から非破壊的に光学的断層画像を取得する装置。連続的に断層写真を取得することで、蛍光染色された物質の3次元分布を知ることができます。また、単一細胞に導入した蛍光色素の分布から、細胞の三次元構造が分かります。
② レーザーフォトリシス
ケージド化合物に光照射することで、局所的に生理活性分子を出現させ、その分子によって引き起こる応答をリアルタイムで測定する装置です。