教授
やまむら まさと
学生の頃は地熱発電の研究をしていましたが、本学着任後は大面積・高速溶液塗布の研究を、足立教授(当時)や企業研究者からの支援を受けて始めました。塗布研究の世界的拠点であるMinnesota大学に2度滞在する機会に恵まれたこと、本学が化学工学会塗布技術研究会の活動を主導していたこと、なにより製造現場が未解明な現象の宝庫であることを多くの技術者に教えて頂いたことが、研究に取り組むきっかけであり、また塗布乾燥工程中の微細構造制御という難しい問題に取り組み続けている原動力となっています。
畳より広く1本の毛髪より薄い産業フィルムの新しい可能性を目指して
化工物性・移動操作・単位操作
塗布、乾燥、微細構造
薄膜コーティングは高分子やナノ粒子などを含んだ機能性液体を高精度で塗布乾燥させる技術です。本技術は液晶・有機ELディスプレイ用の光学フィルム、高機能印刷用のインクジェット光沢紙、家電製品用のカラー鋼板、ペットボトルや飲料缶用の印刷フィルム、コピー機用の有機感光体ドラムや中間転写ベルト、さらには化粧品など、私たちの身の回りの製品に使われています。
髪の毛1本分の40~80μmほどの厚さにコーティングされた液体原料の薄膜が、乾いて固体になると数μmほどの薄さになりますが、その過程では非常に複雑かつダイナミックな物理的・化学的な変化が起こります。塗布乾燥条件が適切でなければ、塗布面に欠陥が発生してしまい、製品の歩留まり低下や製造コストの増加につながります。
本研究室では、フィルム乾燥過程を計測評価するシステムを独自のアイディアで提案することを通して、ソフトマターと呼ばれる内部構造を持つ液体から高品質のフィルムを製造するための基礎研究を行っています。
フィルムのコーティング・乾燥は、化学工学の重要な技術の一つですが、大学でこの分野の研究を実施している研究者は全国でも数名しかおらず、九州工業大学はアジア有数のコーティング研究の拠点となっています。
化粧品分野の液晶ハンドリング技術や、紫外線硬化反応による3次元印刷技術などを,先端塗布技術と組み合わせるために必要な学理を深化させる。フィルム製造工程への深層学習の適用限界を明らかにする。世界的需要が短期間で変動する中でも安定した多品種・大量・省エネ生産が可能な新しい分散型塗布工程の設計理論を創る。
主要な実験機器は手作りで、乾燥中のフィルム状態変化をリアルタイムに把握できる特徴があります。
①2溶媒系フィルムの乾燥速度評価装置:研究室で独自開発した質量/熱流束同時計測法により異なる2溶媒の乾燥速度を独立に決定できます。
②フィルム乾燥過程の可視化装置:研究室で独自開発した質量/可視化同時計測法により,乾燥速度をモニタリングしながら、フィルム内部で発生するセル対流や分離相の構造変化を画像化できます。
③フィルム乾燥過程の分光計測装置:研究室で独自開発した質量/発光スペクトル同時計測法により,乾燥速度をモニタリングしながら、発光成分の厚み方向の偏析度合いを評価できます。
❖フィルム可視化試験および乾燥評価試験:
当研究室で開発中の評価装置を用いて実工程で用いられるコーティング液での乾燥・可視化実験を実施。
❖コーティング・乾燥技術に関する各種コンサルティング:
塗布欠陥,表面凹凸の平滑化、クラック抑制、成分偏析制御などに関する相談を実施
・Adsorption-mediated nonlinearity of critical cracking thickness in drying nanoparticle-polymer suspensions, AIChE Journal 67, e17229 (2021)
・Drying-induced surface roughening of polymeric coating under periodic air blowing, AIChE Journal, 55, 1648-1658 (2009)
・Postponed air entrainment in dilute suspension coatings, AIChE Journal, 51, 2171-2177 (2005)
・Decrease in solvent evaporation rate due to phase separation in polymer films, AIChE Journal, 48, 2711-2714 (2002)
https://www.youtube.com/watch?v=f6-EDrxH3l0
クラック進展過程の解析